相続登記の義務化について(2)
事務局の立場から、前回に引き続き、相続登記の義務化についてご紹介します。
前回は、様々な原因により、土地の所有者が亡くなっても相続登記がなされず、所有者不明土地が生じる問題が発生していることについてご紹介しました。
今回は、土地の所有者が亡くなっても相続登記がなされなかった具体的な事例(実際の事例とは異なる架空のものです)をご紹介します。
前提として、まず、民法上、誰が亡くなった方の相続人になるのかという点について、ご紹介する事例に係る範囲でご説明します。
①被相続人(亡くなった方)に、直系尊属(父母、祖父母等)又は子がおらず、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります(民法887条、889条1項2号、890条)。
②①において配偶者がいない場合は、兄弟姉妹だけが相続人となります。
③①と②において、相続人である兄弟姉妹が亡くなっていた場合は、その子が相続人となります(代襲相続といいます(民法889条2項、887条2項))。
相続関係図
・Xは、台湾から帰化した日本人で、Xの父母及び兄弟姉妹は台湾人であり、台湾に在住しています。Y、Yの父母及び兄弟姉妹は日本人です。
・Xは、不動産甲を所有し、Yと2人で居住していました。
・Xの父母、Yの父母、A及びCは既に亡くなっていました。
・Aには、子がいるのか、いたとして何人いるのかは不明です。
・Xは、遺言を残さずに亡くなりました。
・Yは、不動産甲の相続登記をしませんでした。
・Yは、遺言を残さずに亡くなりました。
まず、Xの相続人は、①及び③よりY、(存在すれば)亡Aの子、Bとなります。
Xが亡くなった時点での、法定相続分に基づく不動産甲への持分は、Yが4分の3となり、残りの4分の1は、亡Aの子、Bが各自等しい割合で有することになります(民法900条3号、4号)。なお、亡Aの子が存在しなければ、Bが4分の1を相続することになります。
次に、Yの相続人は、②及び③により、DとEとなります。法定相続分に基づく不動産甲に対する持分は、Yの法定相続分である4分の3を、DとEが各自等しい割合で相続することになるため、DとEの持分はそれぞれ8分の3となります(民法900条4号)。
この場合、DとEは、それぞれの持分の移転登記をする場合、Yが亡くなった際の相続登記(2次相続)だけでなく、Xが亡くなった際の相続登記(1次相続)が必要となります。
さらに、DとEが不動産甲全部を売却したいと考えた場合は、台湾において、亡Aの子が存在しているかどうかを含めて調査し、存在している場合には探し出し、またBを探し出し、遺産分割協議を行い、合意する必要があります(Yは亡くなっているため、その相続人であるDとEがYの相続人として遺産分割協議を行います)。
このように、土地の所有者が亡くなっても相続登記がなされず、数次相続が発生すると非常に手続きが複雑になることがあります。3次相続、4次相続まで続いた場合はさらに手続きが複雑になります。
Yは、Xが亡くなったときに、相続人を探し出して遺産分割協議を行うことは、現時点と比較すると容易であったと思われます。しかし、相続人であるYに、相続登記の申請義務はありません。また、Xが所有者として登記されているままでも、不動産甲が勝手に売却される等のおそれもありません。したがって、Yは、不動産甲にそのまま居住するだけであれば不都合がないことから、相続登記をしないということは、十分に考えられます。その結果、手続きがさらに煩雑になり、Yの妹のDと姪のEが困ることになります。
(つづく)