事務局から弁護士へ質問(4)-契約書を作成するときに意識することは?
前回は、契約の中でも大量締結を可能にしている定型的な「約款」についても聞きました。私自身も定型的な契約(預金や運送)の上で生活をしていると実感しました。今回は、普段、弁護士が契約書を作成する際に意識していることなど聞いてみました。
事務局S 契約書を作成する際に意識していることはありますか。
今 津 お客様から取引の内容をお伺いして、取引の流れを具体的に把握し、様々なことを想像しながら、契約書を作成します。例えば、秘密情報の範囲をどう定めるか、購入したものに不具合があった場合はどうか、直ちに発見できない問題が1年後に判明した場合にはどうか、2年後に消費者に健康被害が発生した場合はどうかなど、お客様が行う取引の流れのいろいろな局面において、問題が発生した時のことを具体的に想像します。そのうえで、お客様が必要とする権利を定め、かつリスクを把握し、万が一のことが起きた場合に、負わなければならないリスクを低くする契約書の作成を心掛けています。
事務局S 契約書は、いろいろなことを想像しながら作成するのですね。ですけれど、問題が発生するかもしれない全ての場面を、何でもかんでも想像することは簡単ではないような気がします。
今 津 そうですね。ある契約書を作成する際に、一から全て想像しなければならないというわけではありません。契約の種類によって、考えなければならないところ、注意しなければならないところというのは、かなり共通しています。例えば、売買契約書であれば、売買の対象に不具合や権利の問題があった場合の売主の責任をどうするか、責任を負う期間の長短、責任の限定など、必ず注意しなければならないことがあります。
事務局S なるほど。その、考えなければならないところや、注意しなければならないところはどうやって知ることができるのですか?
今 津 法律に関する知識に加えて、想像力と経験と思います。たくさんの契約書を真剣に確認すれば、必ず規定している重要なこと、例えば7割の契約書が規定していること、3割の契約書が規定していること、特殊な場合にのみ規定していることなどがあります。また、ある規定が、どちらに有利でどちらに不利か、通常の場合はどう規定するかなどが分かるようになります。そのうえで、お客様の立場に立って、今回の契約書においては何が必要かを具体的に想像するということになります。
事務局S その経験は、どうやって得られるのですか?
今 津 法律事務所は、常に、契約書の作成や修正に関する、さまざまなご相談を受けていますので、多種多様な契約書が自然と集まります。私どもは、常に多数の契約書を確認して、どのように修正するかを真剣に考えています。そういった経験により、具体的な状況に応じてお客様のご要望に沿った、最適な契約書を作るように心掛けています。もちろん、経験だけではなく、最新の法律に関する知識と、想像力も重要です。
事務局S お客様の声を汲みとって、色々なことを考慮しながら作成しているのですね。また、契約書一つ一つ、オーダーメイドであることに驚きました。私自身、契約書に目を通す機会は少ないですが、そのような弁護士の努力が詰まったものと知ることができ、契約書の見方が変わったような気がします。
今 津 面白いもので、日本で使用されている契約書は、主に米国の契約書から影響を受けているようです。米国で作成された契約書が翻訳されて、そのまま日本語の契約書になっているといった場合もあります。合意により権利と義務を定めるという目的は変わりませんが、契約書も時代と共に少しずつ移り変わっています。
事務局S 国外からの影響もうけているのですね。
今 津 はい。また、契約書の確認と修正は、将来、大量のデータを把握し分析することができるAIが代替できる部分があるように思います。今後、より精度の高い契約書を作成するために、AIを活用するといったことにも取り組みたいです。(次回に続きます。)