契約書における定義
日経新聞の記事「東芝vsWD 契約書の中に「こじれたI(アイ)」」(2017/11/8)によると、東芝と米ウエスタンデジタル(WD)の争いの原因は、一通の合弁契約書にあります。同記事によると、東芝は、WDの同意なく100%子会社の東芝メモリを売却することは合弁契約に反していないと主張し、WDは反していると主張しています。それぞれの主張の違いは、相手方の同意なく売却することができない対象が、「Interest」(東芝の主張で合弁会社の株式の意味。一文字目が大文字表記)なのか、「interest」(WDの主張で合弁会社や東芝メモリの株式を含むより広い意味。小文字表記)なのかによります。
英語の契約書において、定義された用語は、通常、一文字目が大文字で表記されます。定義された言葉は、その言葉が本来有する意味とは異なる意味になります。したがって、英文契約書においては、一文字目が大文字であるのか、それとも小文字であるのかにより、文章の意味が大きく異なる場合があります。
日本語の契約書において、用語を定義する場合には、「本●●」又は「本件●●」というように定義することが多いです。例えば、A社が保有するX社の株式を譲渡する際に、契約書において、X社の株式を「本株式」又は「本件株式」と表記する場合です。これに対して、「本」又は「本件」を付けずに定義する場合もあります。例えば、「A社の不動産賃貸に関する事業及びこれに関連する事業」を、単に「事業」と定義するようなこともあります。このように定義した場合には、事業という言葉が、定義された不動産賃貸に関する「事業」を意味するのか、それとも本来有する意味であるのか、不明確となってしまう場合があります。
契約書は、後に紛争が生じないようにするため、できるだけ誤解が生じないように、明確に作成する必要があります。一方で、意味を明確にしてしまうと、契約の当事者が合意できないため、意図的に部分的にあいまいにする場合もあります。また、契約書を締結するまでに、交渉担当者の方は、双方当事者の力関係などを考慮しながら、①どうしても譲ることができない重要なところ、②できれば譲りたくないところ、③譲っても良いところといったように、優先順位をつけて交渉することになります。当然のことですが、相手のあることであり、また時間的な制約などから思い通りになることばかりではなく、最後は、「えいや!」で決めなければならないこともあるでしょう。それぞれの契約の交渉の過程において、第一線で日々担当者の方が心を砕いておられる様子が目に浮かびます。