種類株式について(3)
事務局の立場から、前回に引き続き、種類株式についてご紹介します。
⑥当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(108条1項6号、同条2項6号)
株式会社は、一定の事由が生じたことを条件として会社がその株式を強制的に取得することができる点において、他と内容の異なる定めをした株式(取得条項付株式)を発行することができます。
取得条項付株式を発行する場合、株式会社は、(ア)一定の事由が生じた日に会社がその株式を取得する旨およびその事由、(イ)(ア)の日にその株式の一部を取得することとするときは、その旨および取得する株式の一部の決定方法、(ウ)会社がその(ア)の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対し交付する対価の内容・数額等またはその算定方法を、定款に定める必要があります。
実務上、(a)普通株式を対価とする取得条項と、(b)現金を対価とする取得条項が比較的よく用いられています。(a)については、IPO(新規上場)において、上場申請時までに普通株式以外の種類株式を消却しておくことを求められることも多いため、IPOを目指している非公開会社の発行する種類株式には、上場申請時やその意思決定時に取得の効力が生じる取得条項が付されることがあります(前掲「会社法実務解説第1版」107頁)。
⑦当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること(108条1項7号、同条2項7号)
株式会社は、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができるという内容の種類株式(全部取得条項付株式)を発行することができます。
全部取得条項付株式を発行する場合、株式会社は、(ア)取得対価の価額の決定の方法、(イ)取得に関する株主総会決議をすることができるか否かについての条件を定めるときはその条件を、定款で定める必要があります。
実務上、全部取得条項付株式は、現金による完全子会社化の手法(スクイーズアウト)として用いられています(前掲「会社法実務解説第1版」108頁)。
例えば、非公開会社であり(株式に市場価格がなく)、普通株式のみを発行しているA社をB社が完全子会社化する場合における、全部取得条項付株式を用いたスクイーズアウトの手続の概要は、次のとおりです。
(a)A社株主総会の特別決議によりA社普通株式を全部取得条項付株式に変更する(108条2項7号、466条、号309条2項11号)。
(b)A社株主総会の特別決議により、A社は、A社が新たに発行する普通株式を対価として当該全部取得条項付株式を取得する(171条1項1号イ、309条2項3号)。その際、B社以外の株主の手元に株式が残らないように対価の比率を調整する(例えば、株主Cが普通株式50株を保有していたところ、全部取得条項付株式100株の対価として新たに発行する普通株式1株を交付するとし、株主Cの保有株式数を0.5株にするなど)。
(c)A社は、裁判所の許可を得て、(b)によって生じた端株を買い取り、B社以外の株主に代金を交付する(234条1項1号・2項~5項)。
(d)B社だけがA社の株主となる。
また、平成26年の会社法改正により、株式併合による方法でスクイーズアウトをすることも可能です。例えば、上記の全部取得条項付株式と同様の例における、株式併合を用いたスクイーズアウトの手続の概要は、次のとおりです。
(a)A社株主総会の特別決議によりA社普通株式を株式併合する旨の決議をする(180条2項、309条2項4号)。その際、B社以外の株主の手元に株式が残らないように比率を調整する(例えば、株主Cが普通株式50株を保有していたところ、普通株式100株を1株に併合するとし、株主Cの保有株式数を0.5株にするなど)。
(b)株式の併合の効力発生日の20日前までに、全株主に対して、個別に、併合の割合等を通知する(181条1項、182条の4第3項)。
(c)A社は、裁判所の許可を得て、(a)によって生じた端株を買い取り、B社以外の株主に代金を交付する(235条1項・2項、234条2項~5項)。
(d)B社だけがA社の株主となる。
(つづく)