退任した取締役による営業秘密の使用及び競業禁止(2)(前回の続き)
次に、会社は、取締役との間で、取締役が、退任後に、前回記載した信義則上の義務を超える範囲で、守秘義務契約や、会社の競業行為を行うことができない旨の契約を締結することができるでしょうか。
この点、東京地方裁判所は、平成16年9月22日、退職後の競業禁止の合意の有効性が争われた事件で、「使用者と労働者の間に、労働者の退職後の競業につきこれを避止すべき義務を定める合意があったとしても」、「諸事情を考慮して、その合意が合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであると判断される場合には」無効と判断しています。その際に考慮される諸事情は、合意が使用者の正当な利益の保護を目的としているか否か、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、使用者による代償措置の有無等です。
会社は、取締役との間でも、取締役が退任後に、守秘義務や競業禁止義務を定めた契約を締結することはできますが、当該契約が有効となるか無効となるかは、諸般の事情を考慮したうえで判断されることになります。