退任した取締役による営業秘密の使用及び競業禁止
取締役は、会社に対して、忠実義務(会社法355条)及びそれに基づく競業避止義務(会社法356条1項1号)を負っています。また、取締役が、会社の営業秘密(例えば、販売マニュアル、顧客名簿、ノウハウ、設計図、実験データなど)を第三者に対して漏えいしたり、自らのために使用したりすることはできません。このような行為をした取締役は、会社に対して、債務不履行に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
では、元取締役が、在任中に知った営業秘密を、退任後に、第三者に対して漏えいしたり、自らのために使用したりした場合に、取締役は、会社に対して何らかの責任を負うのでしょうか。
元取締役は、既に退任していますので、明文上は、会社に対する忠実義務や競業避止義務を負っていません。しかし、元取締役が、会社の営業秘密を自由に使用することができるとすると、会社は容易に取締役を任用できなくなりますので、元取締役は、退任後であっても、信義則上、会社に対する一定の秘密保持義務及びそれに基づく競業避止義務を負う場合があります。また、元取締役が、退任後、会社の営業秘密(①事業活動に有用であり、②秘密として管理され、③公に知られていない情報)を使用した場合で、その元取締役に不正の利益を得る目的または保有者に損害を加える目的があれば、不正競争行為(不正競争法2条1項7号)として、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
(つづく)