退職する取締役による従業員の引き抜き行為(2)(前回の続き)
これに対して、東京地方裁判所は、平成3年8月30日、ゲーム会社の取締役が、会社の開発部門に所属していた3名に不当な退職勧奨をしたとして、会社から損害賠償を請求された事件において、被告が「不当な退職勧奨をしたとは認めがたい」と判断して、忠実義務違反を認めませんでした。したがって、当該判断は、前記②の「不当な」退職勧奨だけが忠実義務に違反するという考え方に立っていると考えられます。
なお、東京高等裁判所は、平成16年6月24日、会社の従業員15名のうち11名が退職し、取締役Y1及びY2が、従業員の引き抜き行為等を理由に損害賠償を請求された事案で、取締役Y1の忠実義務違反を認めると共に、取締役Y2が、引き抜き行為に積極的な役割を演じたり、加担したとまでは断定できないものの、Y1の引き抜き計画を知りながら、それを阻止し、会社に損害が発生することを防止する措置を講じなければならなかったとして、忠実義務違反を認めました。
以上の通り、取締役としての在任中に、従業員を引き抜く行為は、取締役としての忠実義務に違反すると判断される場合もあれば、そうでない場合もあります。また、取締役が、積極的に引き抜き行為に加担しなくても、その計画を知りながら阻止しなかったことにより、忠実義務に違反すると判断される場合もあります。