事務局から弁護士へ質問(6)-企業と株主のトラブル予防策は?
前回は、秘密保持契約について聞きました。今回は、他トラブルの予防策としてどのようなことが挙げられるのか聞いてみました。
事務局S ここまで質問をしてきた中で、企業にとって、契約書をしっかりと見直す必要がトラブル予防の1つであることがとてもよく理解できました。企業にとって、他にはどのようなトラブルの予防策がありますか。
今 津 トラブルを予防するための対策の1つとして、法令を遵守し、会社を運営することが挙げられます。コンプライアンスと言われたりします。
企業を取り巻く環境には、①株主との関係、②取締役との関係、③従業員との関係、④取引相手との関係、⑤消費者との関係、⑥社会との関係があります。これらの関係において、企業が、法令や社会のルールに違反しないようにする必要があります。
事務局S 企業と株主の関係ですか。企業と株主との間のトラブルというのは、なかなか想像できません。どのようなトラブルが起こることがあるのですか?
今 津 株主はいわば企業の所有者ですが、株主は、会社法に基づいて、企業の経営を取締役に委ねています。株主の会社への関与は、基本的に、株主総会を通じて、取締役の選任・解任や企業の基本的な方針を決めることに留まります。そこで、株主と企業とのトラブルは、①株主の意思や意向を離れて、取締役が会社を経営してしまった場合に起こります。また、②取締役が、違法・不当な行為を行っている場合にも起こります。どちらも、株主からすると、「取締役のやっていることはけしからん!」という場合ですね。
事務局S 少しわかりづらいので、具体的に教えてもらえますか?
今 津 ①の場合は、例えば、X社の株主Yは、X社は長期間にわたって営んできた製造業に専念すべきと考えています。これに対して、X社の取締役は、X社は小売事業にも進出すべきと考えており、小売事業を行うために投資を行おうとしています。X社と株主Yの経営方針が相反するような場合です。②の場合は、例えば、株主からすると、取締役Zが放漫経営を行い、X社の利益を損ねているのに、X社の他の取締役がなにもしないような場合です。
事務局S そのような場合、法律事務所はどのように関与するのですか?
今 津 X社側、株主Y側、取締役Z側のいずれ側でも関与することがあります。法律事務所としては、依頼者の立場に立って、法的に主張が成り立つか、主張を成り立たせるために何が必要か、その他の選択肢はないかなどを検討します。具体的には、会計帳簿の閲覧請求、臨時株主総会の招集、株主代表訴訟、違法行為の差し止め、取締役解任の訴え、損害賠償の請求といった場面が想定されます。
事務局S そのようなトラブルが発生することを予防するために、どうすればよいですか?
今 津 議決権の過半数を有する株主は、株主総会において取締役を解任することができますので、圧倒的な力を有しています。そこで、まず、企業や取締役としては、議決権の過半数を有する株主が納得するよう努力する必要がありますね。
事務局S はい。
今 津 そのうえで、法令を遵守し、法令で定められた手続にのっとった経営を行うべきです。例えば、ちゃんと取締役会や株主総会を開催する、招集手続をとる、議事録を作成するといったこともそのうちの一つです。取締役会が設置されているのに、取締役会が開催されていない会社も結構ありますよ。
事務局S そうなのですね。
今 津 株主としての立場からは、議決権の過半数を有する株主が圧倒的な力を有しているといっても、その力を行使することには様々な制約がありますので、時機を逸しないようにすることも重要です。
事務局S 時機ですか。
今 津 今年の株主総会で取締役を解任することができたのに、解任しなければ、次の株主総会が開催されるのは、通常、1年後です。議決権の100分の3以上を有する株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することもできますが、大きな手間と時間が必要となります。その間に、企業の中で、好き勝手なことが行われると困りますよね。
事務局S 本当ですね。
今 津 企業の立場でも、株主の立場でも、ぜひ法律事務所へ依頼され、トラブルが発生することを予防して頂ければと思います。(次回に続きます。)