大株主間の主導権争い
大株主の間で、株式会社の経営に関して、主導権争いが生じることはよくあります。そのような場合、通常は、議決権数の過半数の株式を有する株主が、株主総会において、少なくとも過半数の取締役を選任します。それによって選任された取締役は、取締役会において、過半数の決議により、代表取締役を選任することになります。結果として、過半数の議決権を有する株主が、当該会社に対して、強い影響力を及ぼすことになります。
しかし、過半数の議決権を有しない株主であっても、会社に対して、影響力を及ぼすことは可能です。例えば、議決権数の3分の1を超える株式を有する株主は、株主総会において、特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、かつ出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数で行われる議決のこと。会社法309条2項)を否決とすることができます。特別決議は、①非公開会社における第三者割当による新株発行、②公開会社における特に有利な金額での株式発行、③定款変更、④他の会社の事業の全部の譲り受け、⑤合併、⑥解散など、会社の基本にかかわる重要な事項を決める際に要求されます。
したがって、議決権数の過半数の株式を有する株主であっても、これらの重要事項は、議決権数の3分の1を超える株式を有する株主の賛成を得られなければ、決めることができません。
これに対して、議決権数の3分の2以上の株式を有する株主は、基本的に、対象会社に関する事項は、自由に決めることができることになります。また、一般的な中小企業に多い、非公開会社であっても、議決権数の3分の2以上の株式を有する株主は、第三者割当による株式発行を決議できますので、自らに対して(又は自らの協力者に対して)、新株を発行することによって、会社への支配権を強化し、その反面、反対株主の影響力を小さくしていくことが可能となります。ただし、第三者割当による新株発行の主要な目的が支配権維持である場合には、不公正発行として、新株発行の差止めの仮処分の対象となります(会社法210条、東京地裁平成元年7月25日決定)。
また、議決権数の3分の2以上の株式を有する株主は、全部取得条項付株式を使用して、反対株主を、対象会社から追い出して、株主ではなくならせることも可能です(いわゆる、スクイーズアウト。もちろん、会社は、追い出される株主に対して対価を支払うことになります)。さらに、平成26年の会社法改正により、特別支配株主の株式等売渡請求が制度として新設され(会社法179条以下)、対象会社の株主総会決議を経ずに、特別支配株主(総株主の議決権の10分の9以上を有する株主)が、一定の手続を経ることにより、少数株主の有する株式の全部を、少数株主の承諾を得ずに、対価を支払って取得することが可能となりました。