事務局から弁護士へ質問(9)-取締役の責任とその保険?
前回は、企業が今後行う事業について、コンプライアンス(法令順守)を確認したり、規約や規定を作成したりすることも弁護士の仕事であることを知りました。その中で、企業が適法でないことをした場合、取締役個人も損害賠償責任を負わされる場合があることを聞きました。今回は、取締役の責任について聞いてみました。
事務局S MRPやD&O保険という聞きなれない言葉が出てきました。これは一体どのような保険なのですか。企業が役員を守るために、役員個人の立場を守ってくれる保険なのですか。
今 津 そうですね。MRPもD&O保険も保険会社が提供しているものですが、取締役が、企業、株主又は第三者から、損害賠償請求などの訴訟を起こされた場合に備え、役員に安心して経営に専念してもらうための保険です。MRPは、マネジメント・リスク・プロテクション保険の略で、マネジメント(経営者)を危険から守るための保険です。D&O保険は、Directors & Officers保険の略で、同じく取締役や監査役などを危険から守るための保険です。
事務局S そもそも、取締役や監査役が訴訟に巻き込まれるとはどのような場合ですか。
今 津 取締役や監査役は、①会社、②株主、③取引先、④第三者から訴えられる場合があります。
事務局S え!!企業の責任は全て、その企業自体や代表取締役が責任をとるイメージがあるので、想定外でした。訴訟になった場合、代表取締役ではなく、取締役が責任をとるということですか。
でも、企業対企業の場合、例えば、契約書には代表取締役の名前が記載されていますよね。
今 津 例えば、③取引先から取締役個人が責任を追及される例を挙げます。X社が、Y社から、部品Aを購入しています。その部品Aは、X社とY社が合意している強度又はその種類の部品が通常有しているべき強度を有していませんでした。そのため、Y社が部品Aを組み込んだ製品Bは、想定された又は通常有すべき安全性を有しておらず、使用し続けると危険があることが判明しました。そこで、X社は、全ての部品Aを製品Bから取り除き、別の部品を取り付けなければならなくなりました。部品Aの強度が足りなかった原因は、Y社の従業員が、製造工程において強度を偽装していたためでした。この場合、強度が足りない部品Aを作ったのは、Y社の取締役ではないですよね。
事務局S はい。取締役などではなく、その部下たちですね。
今 津 そうです。そのような場合、Y社がX社に対して責任を負うだけではなく、Y社の取締役に職務を行うについて重過失があれば、Y社の取締役は、X社の被った損害について、個人的に責任を負わなければならない可能性があります。
事務局S そうなのですね!部下たちの偽装を見抜かなければならないのですか?取締役は大変ですね!損害賠償となれば、とても取締役個人が支払えるような額ではなさそうですよね。
今 津 取締役が、部下たちの偽装を絶対に見抜かなければならないというわけではありません。偽装が巧妙に行われていて取締役が容易に見抜くことができないこともあります。ですが、取締役は、取締役会の一員として、一般論として、偽装が行われないように、また仮に偽装が行われた場合であっても発見することができるような会社の環境を作り上げる必要があります。このような責任を負っている取締役が損害賠償責任を負った場合のために保険があります。
事務局S では、取締役が、①会社から責任を追及される場合はどのようなどのような状況が考えられますか。
今 津 先ほどの例で、Y社が、X社に対して巨額の賠償金を支払ったとします。Y社としては、取締役の任務懈怠が原因で損害を被ったとして、取締役に対して損害賠償を請求することが考えられます。
事務局S Y社が、自身の取締役に対して損害賠償を請求するのですか?仲間うちで請求するような感じですが。
今 津 その場合は、Y社の監査役がY社を代表して、取締役に対して、訴えを提起することになる場合が多いです。
事務局S そんなことがあるのですね。(次回に続きます。)