社員が裁判員に選ばれた場合、企業はどうする?
今年も、くじで選ばれた裁判員候補者の方に調査票などが送られてくる時期が近づいてきました。(選挙人名簿からくじで選ばれた翌年1年間の裁判員候補者名簿に記載された方には、毎年11月頃に通知がなされ、辞退理由の有無などを尋ねる調査票が送付されます。)
従業員が裁判員に選ばれると、企業の活動に影響を及ぼすことになります。しかし、裁判員の職務は「公の職務」(労働基準法7条)であり、企業は従業員に対して必要な休暇を与える必要があります(有給である必要はありません。)。また、従業員が裁判員休暇を取得したことを理由に、企業が不利益な取り扱いを行うことも禁止されています(裁判員法100条)。企業が従業員に対して、裁判員を辞退するように命じることも、労働基準法7条に違反することとなる可能性があります。
一方で、裁判員は、一定の期間(事件によって異なりますが概ね数日)はほぼ連日拘束されることになりますので、従業員は、従事する事業の重要な用務をその方が自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある場合など、一定の場合には辞退が認められています。
また、裁判所から、裁判員の勤め先の企業に対して、従業員が裁判員に選ばれたことが通知されることはありません。そこで、企業としては、従業員が裁判員休暇を取得する場合の仕事の調整をスムーズに行うため、①裁判員候補者名簿記載通知を受けたこと、②裁判員候補者として呼出しを受けたこと、及び③裁判員に選任されたことを、それぞれ速やかに、企業に対して報告するよう就業規則などにおいて義務付けておくことをお勧めします。
裁判員は、裁判員に選ばれたことを公にする(不特定又は多数の人に知らせる)ことはできませんが、家族や親しい友人、上司、同僚などに伝えることは特に問題ありません。裁判員でなくなった後は、本人が裁判員であったことを公にすることは禁止されていません。なお、裁判員は、裁判員である期間も裁判員でなくなった後も、評議の秘密や職務上知り得た秘密を漏らすことは禁止されています。
企業としても、従業員が裁判員に選ばれたことを、仕事の調整や配慮のために必要な範囲で、その従業員の上司や、同僚、取引先などに伝えることは問題ありません。しかし、裁判員に選ばれた従業員の氏名などをみだりに口外してはならないことも、あわせて周知しておく必要があります。
当事務所弁護士 今津 泰輝及び弁護士 坂本 敬が執筆した「従業員が裁判員に選出された場合に求められる企業の対応Q&A」が掲載された「企業実務 」(2017年11月号/No.789)が、日本実業出版社から出版されました。