取締役の背任行為に対する単独株主及び少数株主の権利
Y社という、全ての株式が譲渡制限株式である非公開会社において(多くの中小企業はこのような非公開会社です)、Y社が発行した株式のうち、代表取締役であるAが40%、取締役であるBが30%、会社の役職には就いていないCが30%有しているとします。AとBの株式を合計すると、Y社が発行した株式の70%になり、Y社の重要事項のほとんどは、AとBが、株主総会において、共同して議決権を行使することによって決めることができることになりますが、AとBは、大変仲がよく、二人で、ほしいままに、Y社の重要な事項を決めてしまっています。また、AとBが、会社に対して背任行為を行っている疑いすらあるとします。このような場合に、Cが、それに歯止めをかけるために、どのような手段があるでしょうか。
Cは、AとBの背任行為に関する証拠を収集するために、取締役会議事録の閲覧又は謄写を請求する権利や(会社法371条2項から5項、単独株主権)、具体的な理由を明らかにして特定の範囲の会計帳簿の閲覧又は謄写を請求する権利が認められています(法433条、少数株主権)。また、Cは、裁判所に対して、代表取締役であるAの業務執行に関して、検査役の選任を請求することもできます(法358条、少数株主権)。
これらの結果、AとBが、背任行為を行っていたことが判明した場合には、Y社は、AとBに対して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有することが明らかになります。しかし、現役員は、その人間関係などから、事実上、AやBに対して、責任追及したり、訴えを提起したりすることができない可能性があります。(なお、監査役が設置されている場合には、A又はBに対する訴えについて、監査役がY社を代表することになります)。
そこで、Cは、一定の要件を満たしたうえで、Y社が、取締役であるAとBに対して有している損害賠償請求権を、会社を代表して、行使することができます(847条、株主代表訴訟、単独株主権)。また、Cは、一定の要件を満たしたうえで、裁判所に対して、AとBの解任の訴えを提起することもできます(854条、少数株主権)。
また、AとBの背任性が強い場合には、AとBが特別背任罪(960条)を犯しているとして、警察に対して、告発を行うことも検討すべきです。